フィリピンで外国人が100%出資の法人を設立できない業種がある背景

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フィリピンで外国人が100%出資の法人を設立できない業種がある背景には、憲法による歴史的な規定国内産業と国民の保護国家安全保障への配慮など、複数の要因が絡み合っています。以下の表で主要な背景と対象業種を整理し、その後で詳しく説明します。

背景・目的主な対象業種例規制内容(外資比率)
憲法による直接的規制広報・メディア、専門職(弁護士等)、天然資源の開発、公共事業、私有地の所有0%~40%
国内中小企業の保護小売業(資本金低い場合)、サービス業(国内向け)0%~40%
国家安全保障と公益の維持国防関連、エネルギー、輸送、通信などの重要インフラ40%以下
文化的アイデンティティと公共の利益の保護教育(初等教育等)、広告業、マスメディア0%~40%

📜 憲法と歴史的な規定

フィリピン共和国1987年憲法は、特定の経済活動についてフィリピン市民による所有・管理を原則とする規定を設けています。

  • 天然資源の開発: フィリピンの国土や海洋資源は「国民の共有財産」と考えられており、その探査・開発・利用はフィリピン人、またはフィリピン資本が60%以上を占める法人に留保されることが憲法で規定されています。
  • 公益事業の運営: 電力の配電、上下水道など、国民の生活に直結する公益事業も、従来はフィリピン人による管理が原則とされてきました(ただし、後述の通り改正されるものもあります)。
  • 私有地の所有: 土地所有権はフィリピン市民にほぼ限定されています。

これらの憲法上の規定が、外国投資家による100%出資を制限する最も根本的な理由です。

🛡️ 国内産業と国民経済の保護

フィリピンでは、国内の中小零細企業(MSMEs)が経済の基盤を形成しており、多数の雇用を生み出しています。

  • 資本力・規模で劣る地元企業の保護: 資本力のある外国企業が自由に参入すれば、多くの地元中小企業が淘汰されてしまう恐れがあります。例えば、小規模小売業や飲食店などは、外資参入が制限されることで、地元事業者の生存を守っています。
  • 雇用の確保: フィリピン人による事業主体を維持することは、雇用を国内に留め、経済的利益を国民が享受する機会を保つことにもつながります。

このような考え方から、Foreign Investment Negative List (FINL, 外国投資ネガティブリスト) が作成・改定され、外国資本の参入が制限される業種が明確化されています。

🛡️ 国家安全保障と公益の維持

  • 重要インフラの保護: 国防、エネルギー、特定の運輸・通信など、国家安全保障や経済の根幹に関わる分野では、外国資本の影響力を制限する必要性が認識されています。例えば、送配電事業や上下水道事業は、長らく外資比率40%以下に制限されていました(ただし、後述の通り法改正により一部緩和の動きもあります)。
  • 専門職の資格と倫理: 法律家(弁護士等)や公認会計士などの専門職は、フィリピンの法体系や商業慣行、倫理規定に精通していることが求められます。そのため、これらの職業の開業権はフィリピン市民に留保され、外国人がこれらの職業を開業することはできません。

🌍 文化的・社会的配慮

  • メディアと広告: マスメディア(新聞、テレビ放送など)は世論形成に強い影響力を持つため、外国の影響や価値観が国内に無制限に入り込むことを防ぐ観点から、フィリピン市民に所有が留保されています。広告業についても同様の理由で外資比率が制限(30%以下)されています。
  • 教育: 初等教育などは国民の基本的な価値観の形成に関わるため、フィリピン人による運営が原則とされています(ただし、高等教育などでは条件付きで外資参入が可能です)。

💡 規制の例外と緩和の動向

近年のフィリピンは外国直接投資(FDI)を呼び込み、経済成長を加速させることにも力を入れており、外資規制については緩和の動きも見られます。

  1. 輸出指向企業: フィリピン国内で生産した商品やサービスの60%以上を輸出する事業については、外国投資ネガティブリストに掲載されていない限り、100%外資による設立が可能です。これは、輸出を通じて外貨を獲得し、雇用を創出するこうした事業を積極的に奨励するためです。
  2. 経済特区(PEZA): PEZA (Philippine Economic Zone Authority) が認定する経済特区に立地する企業で、輸出向けの事業を行う場合、100%外資が認められ、さらに所得税の免除や輸入関税の免除などの大幅な優遇措置を受けることができます。
  3. 最低資本金要件の充足: たとえネガティブリストに該当する業種(例:小売業や一部のサービス業)であっても、20万米ドル(条件を満たせば10万米ドル)以上の払込資本金を満たせば、外資100%での進出が可能になる場合があります。これは、一定規模以上の資本と事業体量をもつ企業は、地元経済に大きな利益(雇用創出、技術移転など)をもたらすと判断されるためです。
  4. 法改正による規制緩和: 例えば、2022年の公共サービス法改正により、従来外資40%までとされていた通信、航空、鉄道などの分野で、外資100%参入が可能になりました(ただし、送配電、上下水道などは引き続き規制が残っています)。また、再生可能エネルギー事業(太陽光、風力など) についても、外資100%参入が可能とする見解が示されるなど、変化が見られます。

🌟 まとめ

フィリピンで外国人が100%出資の法人を設立できない業種がある背景は、

  1. 憲法で特定の分野はフィリピン国民に保有権を留保するという根本的な考え方
  2. 資本力で劣る国内の中小企業や零細企業を保護し、国民の雇用と生計を守ろうとする政策
  3. 国家安全保障公益文化的アイデンティティを外国の影響から守ろうとする配慮

などが複合的に作用しています。

一方で、外国投資を促進して経済を成長させたいという強い意向もあり、輸出事業経済特区大規模投資を行う場合には100%外資を認めるなど、現実的な側面も併せ持っています。

フィリピンに進出を考える場合は、自社の業種が規制の対象かどうかを確認するとともに、輸出企業としての登録や経済特区の利用、資本金の要件充足など、規制の枠組みの中で可能な選択肢を探ることが重要です。

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